「絶対に儲かる商売だって? そんなもんあるわけないじゃないか!」
もしかしたら、あなたはこう言うかもしれません。でも、絶対に儲かる商売のやり方はあります。世の中に、商売の成功についてのノウハウは山ほどありますが、この前にはすべて吹き飛んでしまうくらい絶対の法則です。
その絶対に儲かる商売やり方とは、「旬に乗る」ことです。旬とは、「トレンド」とか、「ブーム」とか、「風」とか言うもののことです。商売で成功する人は、旬にうまく乗れたか、あるいは、旬を見抜いた人だと言えます。
例えば、ユニクロの急成長の要因に、消費者の低価格志向という「旬」があったのは疑う余地はありません。不景気の場合、お客さんが商品を選ぶのに「価格の安さ」が上位に来るのは歴史を振り返れば明らかなことですよね。今の総合スーパーが急成長したのも、オイルショックによる不景気の頃ですからね。低価格志向という「旬」に乗ったのはユニクロだけではありません。マクドナルドや牛丼チェーン各社も低価格路線で業績を拡大しましたよね。
経験のある商売人なら、「安くすれば売れるわけではない」のは常識です。安さは、お客さんが安さを第一の選択基準にしていない限り、通用しませんからね。景気が回復し始めると、「価格の安さ」は、選択基準の第一ではなくなります。ユニクロが今苦戦しているのはまさにそれが理由だし、総合スーパーの不振にも同じことが言えます。
また、忘れてはいけないのが、「デフレ」という「旬」です。この頃、「デフレ」がニュースにならなかった日はありませんでした。キャスターや評論家は、「デフレこそ、日本経済の最大の問題だ」と力説していましたよね。ユニクロをはじめとする企業の低価格戦略は、この「デフレ」を象徴したものです。だから、マスコミは盛んにこうした企業をニュースとして取り上げていました。これが大変な宣伝になったのは言うまでもありませんよね。
さらにユニクロには、「中国」と言う「旬」もありました。日本の製造業が中国に流出して空洞化してしまうという「中国脅威論」が話題になっていました。ユニクロはそうしたビジネスモデルの典型的な例でした。マスコミが「中国脅威異論」を取り上げるとき、ユニクロは絶好のニュース素材だったわけです。
間違えて欲しくないのは、私は、「旬にうまく乗ったユニクロは運が良かった」なんて言いたいのではありません。カジュアル衣料と言う成熟商品でも、旬に乗れば、あれだけ成長できるのだと言いたいのです。旬に乗ることが、商売にとってどれほど重要かを確認してもらいたいのです。
私自身も「旬」の威力を身を持って体験したことがあります。
’95年11月、私は初めて店長になりました。地方都市のショッピングセンターに出店した、約400坪のパソコン専門店を任されました。この店は、会社の予想を上回り、1年目にして、当初見込まれていた計画の、倍の売上を上げることができました。
正直に告白しますが、この業績の要因は、私の店長としての実力ではなく、うまく旬に乗れたからに過ぎません。開店した翌月にWindows95日本語版が発売されました。ご承知の通り、これ以降、パソコン市場は急速に拡大しました。私の店は、幸運にもこの旬に乗ることができたのです。
この時期の商売はカンタンでした。チラシを入れれば大量のお客さんが集まりました。しかも、集まったお客さんのほとんどが「買いに来た」のです。だから、チラシの費用は一日の利益で回収できました。まさに飛ぶように売れていました。私たちが唯一気をつけていたのは、商品を切らさないことだけでした。だって、あれば売れるんですからね。私は当時の営業日報に、「お客さんが多すぎて対応できない」と言う、とてつもなく贅沢な悩みを書いています。
つまり、旬に乗ることができれば、商売や経営にかかわる難しいことなど考える必要がないのです。「商品があれば売れる」んですから、唯一重要なのは、商品を切らさないことです。販売戦略だってカンタンです。数が売れるんですから、安売りすりゃいいんです。それでも充分利益が上がります。
こうした旬に乗り続けることで成長を続けているのが大手の家電量販店です。白物家電、テレビ、オーディオ、ビデオ、パソコン、携帯電話、DVDレコーダー、薄型テレビ等々、それぞれの旬に、うまく乗り換えながら成長を続けているわけです。
旬を見つけるには?
「旬に乗る」ためには、旬を見つけなければなりません。では、旬を見つけるにはどうしたらいいのでしょうか?
旬を見つける方法は秘密でも何でもありません。と言うのは、意識するしないに関わらず、旬を無視した商売はできないからです。
例えば、商売には売れる月と売れない月があります。言うまでもなく、売れる月が旬ですよね。パソコン販売で言えば、7月、12月、3月です。7月、12月はボーナスシーズンで、多くの人の懐が暖かいから、そして3月は多くの企業が決算月で、決算前の駆け込み需要があるからです。当たり前のことですが、旬の時期に売るほうが、そうでない時期よりも売れるわけです。
こうした旬は毎年繰り返されるため、ルーチンワークになってしまいますが、これだって旬であることには変わりありません。ただ、賢い商売人は、これ以外の旬にも注目して、そうでない商売人と差をつけているわけです。その差はどこにあるかと言うと、情報を生かせるかどうかにかかっています。
私は新人研修で「新聞を読め!」としつこく言われました。私のような販売員だけではなく、およそ社会人であれば当たり前のように言われると思います。ここで差がつくのは、では実際に新聞を読むか、そして、読んだとしても、情報を商売に生かそうとするかです。
例えば、コンピュータウイルスの被害がニュースになったとしましょう。このニュースが出ると、確実にウィルス対策ソフトの売上が上がります。業界では、ウィルス対策をするように注意を喚起しているのですが、ニュースにならないと行動を起こさない人がたくさんいます。だから、ニュースになったときがビジネスチャンスなわけです。機を見るに敏なパソコン販売店は、ウィルス対策ソフトを前面に出し、こうしたニュースの切抜きをPOPにして売上増を狙うでしょう。
パソコン販売におけるウィルス対策ソフトの売上など僅かな差でしかありませんが、商売とはこうした小さな差が積み重なって大きな差になるわけです。事実、大手家電量販店と中堅の差は、電池の売上の差だったりします。中堅どころにいた私には信じられませんが、大手は電池だけでも「億」売るそうですからね。
また、商売に生かせるのは業界の情報だけではありません。消費税の導入や税率アップだって旬になります。消費税導入前は、すべての商売人が駆け込み需要を狙ってセールを行いました。賢くない商売人は、消費税が導入されたら「しばらく売れないな」なんて考えましたが、賢い商売人は違いました。消費税還元セールを行って売上を作ったわけです。
マスコミの世界には、「悪いニュースは良いニュース」と言う言葉があるそうです。マスコミの世界でこれがどういう意味なのかはよくわかりませんが、商売にも同じことが言えます。商売は「危機」のときほど「好機」と言えます。倫理的にはどうかと思いますが、戦争が起こると、商売のチャンスなわけです。不景気は、賢くない商売人にとっては危機ですが、賢い商売人にとっては、安売りで儲けるチャンスと言えます。
つまり、旬とはニュースのことです。ニュースは、その気になれば誰でも平等に手に入れることができます。商売で差がつくのは、その情報を商売に生かすかどうかだけなのです。
どうですか? 旬を見つける方法は、あなたも当然知っていましたよね?
断言しますが、商売に、誰も知らない秘密の方法なんてないのです。商売とは、当たり前のことを、当たり前にできるかが全てなのです。
初出:2003年2月25日「Manager-NET通信」