この考え方、非常に評判が悪いですが「困ったら顧客に売れ」は鉄則です。
評判が悪いと私が言う理由は、この話題を取り上げると必ず購読解除が増えるからです。びっくりするくらい読者が減ります。
そして、この話をバカにする人が必ず言うのが「うちは顧客しか来ないんだ」と言う世迷言です。それはまったくの勘違いです。なぜなら、私自身、ポイントカードシステムが導入される前、全く同じことを言っていたからです。
売れないのは「顧客しか来ないから」ではありません。それは勘違いです。事実はもっと残酷なのです。
ポイントカードシステムでわかったこと
導入されたポイントカードシステムが、私たちに示したのは、新しいお客様がリピートしないと言う事実でした。そこそこ新しいお客様は来ています。それはポイントカードの発行枚数でわかります。でも、リピートするお客はたったの60%しかいなかったのです。
ビックカメラやヨドバシカメラの場合、購入者の8割がポイントカードを持っています。つまり、8割が顧客と言うことです。
あっちは順調に売上を伸ばしているのに、こっちは売上低迷。その理由の一端はここにあったのです。
新しいお客を獲得するのはカンタン
新しいお客を獲得するのはカンタンです。価格の10倍の価値を持つ商品を提供できればお客は来ます。たとえばテレビ1円とか。
価格の10倍の価値を持つ商品ならクチコミが起こりますから、チラシを配布する部数も少なくてすみます。たぶん、店頭で告知するだけでもお客は来るでしょう。
顧客にするのはカンタンではない
ところが、顧客にするのはカンタンではありません。たとえば価格しかアピールするものがなかったら、リピートしてもらうには価格しかありません。価格で対抗できなくなったら終わりです。
新しいお客を顧客にできないのは、80%は現場の責任です。リピートするだけの魅力が売場にないということなのです。
顧客作りにはポイントカードシステムがあると便利です。ポイントカードシステムを導入するのは会社の判断です。現場では何もできません。
ポイントカードシステムは顧客を増やすシステムではない
ポイントカードシステムは、「顧客を増やすシステム」ではありません。ポイントカードシステムは、顧客作りを助けてくれるシステムですが、顧客を作るシステムではないのです。
今現在、顧客がいなければ、ポイントカードシステムを導入しても状況は変わらないでしょう。
そもそもポイントカードがなくても顧客は作れます。私がまだ新人の頃、こんな出来事がありました。
100万円足りない……
その日は大雨で、目標に100万円ほど足りませんでした。まあ、目標に届かないなんてよくあることなんです。ただ、この月は販売計画を達成できるかどうかぎりぎりのところで、しかも、その日は29日でした。残りはあと1日で、翌日は土曜日。
土曜日の目標は鉄板で、まず間違いなく達成できるものでした。ですから、当月の販売計画を達成できるかどうかは、この日の売上次第だったのです。
雨足は弱まらないまま午後5時。このままでは目標達成は不可能と判断した店長は、50歳オーバーのベテランの販売員に頭を下げました。
「Sさん、今日明日中に100万円、何とかできませんか」
こうお願いされたSさんは、「やってみましょう」とおもむろに大判の手帳を取り出し、パラパラとめくりはじめました。この大判の手帳こそ、店長が頭を下げる理由です。ベテラン販売員の最大の資産、数千人とも数万人とも噂される顧客リストです。
Sさんは、何人か目星をつけたようで、電話を掛け始めました。
「冷蔵庫、そろそろじゃない? あ、ちょっと早いか。でも、いいのがあるよ。安くしておくからどう?」
彼の手帳には、顧客の連絡先はもちろん、いつ、何を買った、置き場所の大きさ、その商品に払える予算と価値観など、商売に必要な情報が詰まっていたわけですよね。
困ったら顧客に売れ
こんな調子で7件電話を掛けて、「店長、120万、代引きで決まりましたよ」と報告しました。私はそれ以来、Sさんを見る目が変わりました。さえない初老のおっさんを「かっこいい」と思いました。
これが「困ったら顧客に売れ」のパワーを初めて目の当たりにした瞬間でした。
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