人は成功事例が好きです。
なぜなら、成功した方法なら、真似すれば自分も成功するかもしれないと思うからです。
もちろん、現実はそんなに甘くはありませんが。
むしろ、実際に役に立つのは失敗事例です。
私が勤めていた2つの会社は、私が入社した直後から急成長が始まり、一気にピークを迎えた後、成長したのと同じスピードで衰退していきました。
面白いのは、その経緯がびっくりするくらいそっくりだったことです。
店が急成長するパターンはひとつしかありません。多店舗展開です。店が増えれば売上も増える、当たり前のことです。
衰退するパターンもそんなに数は多くありません。ほぼ99%が在庫の失敗です。
在庫で破綻
私がいた最初の会社は、ある時期不良在庫を抱えすぎて身動きが取れなくなりました。
幸い、金融機関から来た専務が仕入れにストップをかけたことで、支払い不能の事態は免れました。
しかし、売れる商品さえも仕入れることができなかったため、売上は激減しました。
これが1年くらい続いて在庫が軽くなったころにはお客様に見捨てられていました。
2番目の会社は在庫過剰で債務超過に陥り、一部上場の企業に救済を求めました。
たくさんの人間が送り込まれてきました。
しかし、この会社、まったく小売の経験がなかったため、見当違いな施策をやりまくり、年商1,000億あった会社を1000分の1に縮小させ、投資ファンドに売却してしまいました。
細部は違いますが、躓きのきっかけは「在庫」です。
自分が何者か忘れて破綻
会社を倒産させるもう一つの方法は「自分が何者か忘れる」です。
意味がわからないでしょうから解説します。
私がいた2つの会社は、パワーユーザー(別名マニア、オタク、廃人)をお客様とすることで成長しました。
特に2番目にいた会社は、売上シェアの上位がIBMとAppleでした。
ちなみに当時の市場シェアは、NECと富士通が1番と2番で、IBMは6番目で、Appleは覚えていません。
救済に入った一部上場企業の社長をはじめとする幹部連中はこれを問題視しました。
「IBMとAppleが売れるなんておかしい。もっとNECや富士通を売れ!」
あなたはこの意味がわかりますか?
当時、私たち現場の人間は誰も口にはしませんでしたが「それのどこがまずいの?」と思いました。意味がわかりませんでした。
なぜなら、商売的にいえば、IBMとAppleに強い店は有名店にはなくて、私たちの店の極めてユニークな特長でした。
すべての企業が必死で差別化するポイントを探している中、私たちの店はすでにそれを持っていたのです。
それのどこがまずかったのでしょうか?
「もっとNECや富士通を売るべき」と言う意味なら、もともと有名店のほうがはるかに多く売っていますし、ぶっちゃけ同じ土俵で勝てるわけがありません。
もちろん、経営陣の方針ですから従いましたけどね。
でも、どう考えても勝てる勝負ではありませんでした。
売上は下降し続け、ある時点から歯止めがかからなくなりました。
そして、その一部上場企業は手を引き、社長はじめ幹部は誰一人責任を取ることもなく元の会社へ帰っていきました。
もっとも彼らだけが悪いのではありません。本当は私たちもはっきり言うべきだったのです。
「IBMとAppleが強いのは私たちのユニークな特長で、NECや富士通では大手とは戦えない」と。
が、指名解雇が進行している中、下手なことを言って睨まれたくないので私も誰も何も言えませんでした。
この話、もしかしたらあなたには笑い話に聞こえるかもしれませんがそうではありません。同じようなことは常に起こっています。
自分が何者か、自分の強みが何か、実は一番わかっていないのが自分かもしれないのです。
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