もしかしたらあなたは、従業員がパクっているなんて信じられないし、信じたくないかもしれません。
その気持ちはよくわかります。しかし、従業員がパクっていたなんて話、はっきり言って珍しいことではありません。
私がいた2つの会社で起こっていたのはもちろん、同業のライバル店でも、デパートにテナントで入っていたときは、他のテナントでも、起こった話を聞いたことがあります。
この手の話、店の恥なので、本来なら外部に出るはずはないのですが、不思議なことに何事も隠そうとすればするほどばれるようですね。
従業員に不正をさせないために
従業員がパクった事件
私が見聞きした中で、もっとも大きな事件は、部長と課長の二人が共謀して商品を横流ししていたことです。横流しした金額は1億円以上です。
手口はシンプルでした。売場の従業員に「この商品をここに送っておいて」と指示するだけです。伝票も何もないのですが、部長や課長に言われたら、そりゃ疑わずに送ってしまいますよね。
この件が発覚したのは、派手にやりすぎたからです。一度に何十台とまとめて送ることが多くなって、さすがに「おかしい」となって、調査が入ってばれたようです。二人はあっさり事実を認めて懲戒免職になりました。
もっと控えめにやっていれば、立場が立場なだけに、ずっとバレなかったかもしれませんね。
私の部下にもいました……
恥を忍んで告白しますが、私の部下でもやらかした奴がいます。
ある社員が倉庫で、人気商品のノートパソコン2台が入ってきたのを確認しました。彼は1台予約を受けていて、お客様に電話するために売場に戻りました。
そして、接客などいろいろあり、15分ほどして倉庫に戻りました。すると、ノートパソコンが2台消えていました。倉庫のどこにも見当たりませんでした。何度も目にしている商品です。間違いや勘違いのはずはありません。確かにあったのに消えてしまったのです。
彼は業務担当者に確認しました。業務担当は、確かに入荷したと答えました。伝票まで確認しました。
彼は売場に戻り、レジ係に聞きました。「○○って売れた?」。15分の間に誰かが売ってしまったのかと思ったのです。彼女の答えは「いいえ」でした。
その後は、検品した業務担当の社員、アルバイトと一緒に、倉庫内はもちろん、売場、事務所を徹底して探し回りました。
そして見つかりました。「まさか」と言う場所にありました。デベロッパーの配送センターです。
私の店は、自分たちが契約している配送業者を使っていて、デベロッパーの配送センターは使っていませんでした。ここを使うはずがないのです。誰が持ち込んだのかは配送伝票ですぐにわかりました。そうです。そいつがパクっていたのです。
実は似たようなことが頻繁に起きていました。おそらく、何度も同じ手口を使っていたのでしょう。このとき、たまたま担当者が必死に探したので発覚しましたが、そうでなかったらずっと気づかないままだったでしょう。
私は、彼を信用していただけに大変な怒りを覚えました。正直言って殺意さえ覚えました。
しかし、後で上司に言われたのですが、やられるほうも悪いんです。店長の責任の一つとして、将来のある若い従業員を、犯罪者にしてはいけないのです。
もう少し一般的な従業員の不正
例に挙げた2つはスケールが大きすぎて実感が湧かないかもしれません。そこで、もう少し一般的な従業員の不正を2つ紹介します。
友人に持ち帰らせる
自分がレジ担当のときに、友人を来店させ、買い物をさせます。自分でレジをやるのですが、一部の商品だけ清算し、他はレジを通さずに商品を渡します。要は、レジを素通りさせるわけです。
この方法は、やられると厄介です。
この不正を見つけるには、レジに防犯カメラを設置する必要があります。それでも、映像と言う証拠を突きつけても、「間違えた」と言う言い訳が可能です。だから、ヤツらも不正をしたことをカンタンには認めません。およがせて常習的にやっていると証明する必要があります。
もっとも、ものすごく手間ですから、ヤツがアルバイトなら、立証するのは諦めて、適当な理由でクビにしたほうがいいでしょう。
レジから現金を抜く
商品を盗むのではなく、お金を盗む不正です。実は、店の場合、従業員の不正は、この不正が圧倒的多数です。
あなたの店ではレジの違算は起こっていますか?
本来ならあってはならないことですが、ぶっちゃけ、よくあることです。百円以内の違算なら、お釣りの渡し間違いで処理して大丈夫です。でも、万単位で違算が起こることはありませんか?
お釣りの渡し間違いで万単位の違算は起こりません。だから普通は、原因を特定するものもカンタンです。大抵、返金処理をしていないとか、あるいは、レジ処理を間違えて打ち直したのに、間違えた分を取り消していないというのが原因です。こうした間違いはジャーナルを丹念に見ていけば特定できます。
しかし、もし原因がわからない場合は?
聞きたくないかもしれませんが、誰かがレジから現金を抜いているのです。
そんな危ないことをやるヤツがいるのか?と言うのは普通の人の感覚です。手癖の悪いヤツはそんなことは考えないのです。
幸い、私の店で起こったことはありませんが、聞いた話では、ヤツらは罪の意識が薄いんだそうです。
ある店の店長が、防犯カメラの映像を使って、万札を抜いた犯人を特定しました。問い詰めたところ、「時給が安いんだから、これくらいのことがないとやってらんない」と開き直りやがったそうです。
従業員に不正をさせないためには?
従業員に不正をやられると大変です。見つけるのが難しいので、損害が大きくなりがちです。
私たちは、「不正はしない」と思っているから仕事を任せるわけです。部下を疑うのは私たちには難しいことなので、なおさら被害が大きくなってしまうのです。
では、従業員に不正をさせないためにはどうしたらいいのでしょうか?
実は、方法としては難しいことではありません。
管理をしっかりして、隙を見せなければいいのです。不正をしたらすぐにばれると言う状態にしておけば、いわゆる魔が差すという意味での不正は起こりません。もちろん、最初からそのつもりのヤツには関係ありませんが。
信用できない人間を採用しない
信用できない人間を採用しないことです。
もちろん、信用できるかどうかを見極めるのは難しいです。ですから、店長が面接で判断できる材料として、第一印象を重視することをお薦めします。
経験則ですが、第一印象は勘が働きます。ヤバそうな人間は何となく感じるものです。
不心得者は、平気で嘘を付くことができます。だから、話をしているうちに「第一印象ほど悪いヤツじゃなさそうだ」となりがちです。でも、経験上、第一印象のほうが正確だと思います。
私の元で不正をした従業員ですが、後付ではなく、第一印象がよくなかったのです。「こいつ、やばいんじゃないか・・・」と言うのがヤツの第一印象でした。
ヤツは、新店の開店前に、慌てて採用した中の一人でした。開店10日前だったのにも関わらず、従業員の頭数が揃っていませんでした。開店まで日がないので、「面接に来たヤツなら誰でもいい」といいと言う状況で採用してしまったのです。それが失敗の元でした。
あなたが悪い印象を感じたら、それを信じて採用しないことです。もちろん、その印象が外れている可能性もあります。
でも、あなたに人を見極めている時間はありますか?
いいえ、店長はそんなに暇ではありません!
ダメだったらクビにする?
もちろん、採用した上で、ダメだったらクビにするという手もあります。でも、この方法はお薦めしません。なぜなら、今いる従業員の意欲を破壊しかねないからです。
取り敢えず採用した人間がダメなヤツばかりだった場合、従業員がどう感じるかを考えてほしいのです。
「店長は、自分たちの仕事を、あんなヤツでもできる仕事だと思っているんだ」
あなた自身のことを考えてみてください。
「店長の仕事は誰でもできる」と上司に言われたら腹が立ちませんか? やる気が落ちませんか?
店長は従業員に「自分の仕事は誰でもできる仕事だ」と思わせてはいけないのです。これは従業員に対する最低限のマナーです。
レジから現金を抜かれない方法
レジから現金を抜かれないためには、どのように管理すればいいのでしょうか?
これは比較的カンタンです。担当者が代わるタイミングで、レジ点検を行えばいいでしょう。
レジから金を抜かれるのは、自分が盗んだと疑われないから抜くわけです。だったら、抜いたら疑われるようなシステムにしておけばいいんです。
もちろん、パクっていても「間違えた」と言い訳できます。しかし、万単位で違算が出た場合は、「向いてないから」と言う理由でクビにできます。いずれにせよ、こちらに損はありません。
点検を行う場合、レジの運用などで工夫が必要です。でも、そのくらいの工夫、現金を抜き取られるよりはましでしょう。
商品をパクられない方法
商品をパクられないためには、どのように管理すればいいのでしょうか?
バックヤードを整理整頓
第一に、バックヤードを整理整頓することです。まずはこれが大前提です。バックヤードが乱雑で、どこに何があるかわからないという状態は、必ず悪い誘惑に駆られるヤツが出てきます。
こんな状態だと、パクられてもまったく気づかないでしょう。逆に、商品がなくなっても盗難とは断言できません。どこかに紛れ込んでしまったのかもしれませんからね。盗難なのか紛失なのか、原因がわからければ何の対策も打てませんよね。そして、パクったヤツは「この店チョロい」と舌を出しているのです。
バックヤードが整理整頓されていれば不正は起こりにくいです。これは私が身近で見た多くの店が証明しています。
毎日、簡易棚卸を行う
第二に、毎日、簡易棚卸を行うことです。
閉店後に棚卸をやって、帳簿と実際の在庫があっているかを毎日チェックするのです。
もちろん、毎日全品の棚卸なんてできないので、商品を限定して行います。どの商品を棚卸するかは、当日に決めましょう。
簡易棚卸をやったことがなければ、ぜひ、毎日とは言いませんのでやってみることをお薦めします。店のロスの実態がはっきりわかります。その代わり、ショックを受けても私は責任を持てませんが。
ここまでやると商品をパクられることはかなり減ります。
より万全を期すには売場、バックヤードに私物(特にかばん、バッグ)を持ち込ませないのが理想です。もっとも、これについては店によっては実現不可能なことがあるので、可能なら考えてください。
従業員を犯罪者にしてはいけない
私たちは若い人をお預かりすることが多い職場です。その責任として、やはり従業員を犯罪者にしてはいけないのです。それが私たちの責任です。
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